
国内製薬大手の2026年度第1四半期決算は、全体として力強い内容でした。ただし、「主要7社中6社が増収・増益」という言い方には注意が必要です。2026年4月から6月までをそろえて集計すると、売上収益は7社中6社が増収でした。一方、IFRS営業利益と親会社の所有者に帰属する四半期利益は、ともに5社が増益です。コア営業利益を公表する6社では5社が増益し、コア指標を公表しない塩野義のIFRS営業増益を加えた会社別採用指標では6社が増益となります。
本記事では、武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共、エーザイ、小野薬品工業、塩野義製薬、住友ファーマの7社を同じ期間と会計指標で比較します。12月期決算の大塚ホールディングスと中外製薬は、2026年1月から6月までの上期実績として別枠で整理しました。基準日は2026年8月11日です。
- 主要7社の売上収益合計は3兆788億円で、前年同期比17.3%増
- IFRS営業利益合計は6,115億円で、前年同期比29.0%増
- 増収は6社、IFRS営業増益は5社、最終増益も5社
- コア営業利益を開示する6社では5社増益。塩野義のIFRS営業増益を加えた会社別採用指標では6社増益
- アステラスの通期予想は据え置きであり、1Qで再上方修正した事実はない
- 大塚HDと中外製薬は12月期企業のため、主要7社の1Q集計には入れず上期実績として確認
製薬大手7社の2026年度1Q決算を一覧比較

最初に、何をもって「好決算」と呼ぶのかをそろえます。売上収益、IFRS営業利益、親会社帰属利益は会計基準上の数字です。コア営業利益や事業利益は、一過性項目を除く目的で各社が独自に定義した補助指標です。両者を混ぜると、増益企業数が変わります。
| 比較指標 | 増加した会社 | 減少した会社 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 6社 | 1社 | 事業規模の拡大を確認 |
| IFRS営業利益 | 5社 | 2社 | 一過性損益を含む会計利益 |
| 親会社帰属利益 | 5社 | 2社 | 税金や金融損益まで反映 |
| 会社別採用指標 | 6社 | 1社 | コア開示6社と塩野義のIFRS営業利益を使用 |
「6社増益」は、コア営業利益を開示する6社のうち増益5社に、塩野義のIFRS営業増益を加えた会社別採用指標で成立する、というのが正確な結論です。純粋なコア利益7社比較ではありません。本記事の主表は比較可能性を優先し、IFRS営業利益を採用します。
対象期間をそろえることが重要
| 企業群 | 決算期 | 今回の対象期間 | 記事内の扱い |
|---|---|---|---|
| 武田、アステラス、第一三共、エーザイ、小野、塩野義、住友 | 3月期 | 2026年4月1日から6月30日 | 主要7社の1Qとして合算 |
| 大塚HD、中外製薬 | 12月期 | 2026年1月1日から6月30日 | 最新の上期実績として別枠掲載 |
| イーライリリー | 12月期 | 2026年4月1日から6月30日 | 海外比較として別枠掲載 |
大塚HDと中外製薬を4月から6月の7社集計へ足すと、期間の長さも決算期も違う数字を比べることになります。ニュースを読むときは、会社名より先に対象期間を確認すると誤読を避けられます。
主要7社の実績
金額は各社の決算短信をもとに億円単位へ換算し、増減率は会社公表値を使っています。
| 会社 | 売上収益 | 前年同期比 | IFRS営業利益 | 前年同期比 | 親会社帰属利益 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 武田薬品工業 | 1兆2,199億円 | +10.2% | 2,014億円 | +9.1% | 1,132億円 | -8.9% |
| アステラス製薬 | 6,409億円 | +26.7% | 1,845億円 | +94.9% | 1,418億円 | +107.3% |
| 第一三共 | 5,747億円 | +21.1% | 851億円 | -12.0% | 686億円 | -19.7% |
| エーザイ | 2,343億円 | +15.6% | 247億円 | +19.2% | 182億円 | +26.0% |
| 塩野義製薬 | 1,633億円 | +63.7% | 669億円 | +90.6% | 977億円 | +148.2% |
| 住友ファーマ | 1,295億円 | +19.9% | 182億円 | -10.8% | 170億円 | +51.7% |
| 小野薬品工業 | 1,162億円 | -8.9% | 307億円 | +39.4% | 242億円 | +36.7% |
| 7社合計 | 3兆788億円 | +17.3% | 6,115億円 | +29.0% | 合計値は参考 | 5社増益 |
集計結果は明確です。小野薬品を除く6社が増収となり、第一三共と住友ファーマを除く5社がIFRS営業増益でした。売上と営業利益の合計も2桁増で、業界全体として好調だったとの評価は妥当です。ただし、塩野義の企業買収や為替効果など、全社共通ではない要因も大きく寄与しています。
7社合計を押し上げた会社はどこか
7社の売上収益は前年同期から4,538億円増えました。増加額への寄与が最も大きかったのはアステラスで、次いで武田、第一三共です。この3社だけで増収額の約77%を占めます。営業利益の増加額1,373億円については、アステラスが約65%、塩野義が約23%を占めました。業界全体が均等に伸びたというより、伸びの大きな数社が合計を強く押し上げた構図です。
| 会社 | 売上増減額 | 売上増加額への寄与 | 営業利益増減額 | 営業利益増加額への寄与 |
|---|---|---|---|---|
| 武田 | +1,132億円 | 24.9% | +169億円 | 12.3% |
| アステラス | +1,351億円 | 29.8% | +899億円 | 65.4% |
| 第一三共 | +1,001億円 | 22.1% | -116億円 | -8.5% |
| エーザイ | +317億円 | 7.0% | +40億円 | 2.9% |
| 小野 | -114億円 | -2.5% | +87億円 | 6.3% |
| 塩野義 | +635億円 | 14.0% | +318億円 | 23.2% |
| 住友 | +215億円 | 4.7% | -22億円 | -1.6% |
寄与率は各社の増減額を7社合計の増減額で割った本記事の再計算値です。マイナスの会社があるため、プラス寄与の合計は100%を超えます。この表からは、第一三共が大幅増収でも会計上の営業利益ではマイナス寄与だったこと、小野が減収でも増益に寄与したことが分かります。
通期予想に対する進捗率
1Q実績を最新の通期予想で割ると、営業利益の進捗が高い会社もあります。ただし、製薬企業は導出一時金、マイルストン、季節性、研究開発費、減損が四半期ごとに偏るため、単純に4倍して着地を予想するのは危険です。
| 会社 | 売上進捗率 | 営業利益進捗率 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 武田 | 26.3% | 48.0% | 営業利益は高進捗だが予想据え置き |
| アステラス | 28.9% | 46.7% | 高進捗でも予想据え置き |
| 第一三共 | 24.6% | 26.6% | 修正後予想に対しておおむね4分の1 |
| エーザイ | 26.5% | 35.3% | 費用の期ずれも確認が必要 |
| 小野 | 25.5% | 32.6% | フォシーガ契約終了後の基準年 |
| 塩野義 | 23.3% | 30.4% | 買収後の会計影響に注意 |
| 住友 | 24.0% | 20.2% | 営業利益は4分の1を下回る |
とくに武田とアステラスは営業利益の進捗が45%を超えていますが、両社とも通期予想を変えていません。会社側が下期費用、為替、製品構成などを織り込んでいる可能性があるため、高進捗だけを理由に上方修正を確実視すべきではありません。
「会社別採用指標で6社」と「IFRSで5社」が両立する理由

製薬企業は研究開発資産の減損、導入契約の一時金、事業再編費用、条件付対価の公正価値変動などが大きくなりやすい業種です。そのため、多くの会社が本業の推移を見る補助指標を公表しています。今回、コア営業利益を開示しているのは塩野義を除く6社で、そのうち増益は5社です。次表の塩野義だけはIFRS営業利益を掲載しています。
| 会社 | 会社が重視する補助指標 | 1Qの増減 | IFRS営業利益との違い |
|---|---|---|---|
| 武田 | Core営業利益 | +11.5% | 買収関連償却などを調整 |
| アステラス | コア営業利益 | +55.6% | 減損など一過性項目を調整 |
| 第一三共 | コア営業利益 | +6.2% | IFRS営業利益は12.0%減 |
| エーザイ | コア営業利益 | +13.9% | 前年の事業再編費用などを調整 |
| 小野 | コア営業利益 | +22.5% | 無形資産償却などを調整 |
| 塩野義 | IFRS営業利益 | +90.6% | 本表では会社公表の営業利益を使用 |
| 住友 | コア営業利益 | -11.0% | IFRS営業利益も10.8%減 |
第一三共は代表例です。コア営業利益は1,073億円で6.2%増えましたが、IFRS営業利益は851億円で12.0%減りました。エンハーツなどの販売は伸びても、提携や開発に伴う一時的な損益が会計利益を押し下げることがあります。したがって、決算を評価するときは「どの利益が増えたのか」まで確認する必要があります。
会社別に見る好調要因と注意点
武田薬品工業は増収増益でも円安寄与が大きい
武田の売上収益は1兆2,199億円、Core営業利益は3,589億円でした。円換算では増収増益ですが、恒常為替レートで見た売上収益は0.5%減です。会社も売上増加の主因として円安を挙げています。オンコロジーや消化器系などの製品群が伸びた一方、最終利益は8.9%減りました。
通期予想は売上収益4兆6,400億円、営業利益4,200億円、親会社帰属利益1,660億円で据え置かれました。1Qの見た目だけで通期上振れを決めつけるのは早く、為替を除いた数量成長と研究開発の進捗を確認したい局面です。数値は武田薬品工業の2026年度1Q決算資料で確認できます。
アステラス製薬は重点戦略製品とXTANDIが牽引
アステラスは主要7社で最も高い増収率を記録しました。PADCEV、IZERVAY、VYLOY、VEOZAH、XOSPATAといった重点戦略製品に加え、前立腺がん治療剤XTANDIも拡大しました。コア営業利益は2,214億円で55.6%増、IFRS営業利益は1,845億円で94.9%増です。
円安も売上収益を約600億円、コア営業利益を約255億円押し上げました。米ドルの平均レートは前年同期の145円から159円、ユーロは164円から185円へ動いています。重要な訂正点として、2026年8月5日に公表した1Q決算で通期予想は変更されていません。売上収益2兆2,200億円、営業利益3,950億円、親会社帰属利益3,000億円のままです。詳細はアステラス製薬の2026年度1Q決算資料にあります。
第一三共はエンハーツ好調でもIFRS利益が減少
第一三共の売上収益は5,747億円で21.1%増となりました。グローバル主力品エンハーツの製品売上収益は2,192億円で41.2%増です。ADCの需要拡大は確かですが、2025年度の売上収益はすでに2兆1,230億円だったため、「今期に初めて2兆円台を視野」という説明は古くなっています。
通期売上収益予想は2兆2,800億円から2兆3,400億円へ引き上げました。IFRS営業利益は3,150億円から3,200億円へ上方修正した一方、親会社帰属利益は2,600億円から2,510億円へ引き下げています。売上の上方修正だけで全面的な上方修正と表現しない方が正確です。根拠は第一三共の2026年度1Q決算短信です。
エーザイはレケンビ、レンビマ、デエビゴが伸長
エーザイは売上収益2,343億円、営業利益247億円でした。レケンビ、レンビマ、デエビゴの伸長に円安が重なり、売上収益は15.6%増えました。レケンビのグローバル売上収益は293億円で26.7%増です。155億円、70.5%増という数字はアメリカス医薬品事業分であり、グローバル合計ではありません。
一方で、レケンビへの販促投資や重要プロジェクトへの研究開発投資も増やしています。為替は売上収益を189億円、営業利益を14億円押し上げたと会社が試算しています。通期予想は売上収益8,835億円、営業利益700億円で据え置きです。決算短信はTDnetのエーザイ1Q資料で確認できます。
小野薬品工業はフォシーガ共同販売終了で唯一の減収
小野薬品は主要7社で唯一の減収でした。アストラゼネカとのフォシーガ共同販売契約が終了し、前年同期に251億円あった売上計上がなくなりました。オプジーボも競争激化などで4.1%減収となり、国内製商品売上は35.0%減りました。
一方、海外製商品売上やロイヤルティー収入が伸び、営業利益は39.4%増、コア営業利益は22.5%増です。「減収だから不調」「営業増益だから全面的に好調」のどちらも単純すぎます。契約終了という構造変化と、海外の成長を分けて見る必要があります。詳細は小野薬品工業の1Q決算短信を参照してください。
塩野義製薬は買収効果とViiV関連利益が寄与
塩野義は売上収益63.7%増、営業利益90.6%増、親会社帰属利益148.2%増と、表面上は7社で最も強い伸びです。Fetrojaの欧米売上やHIVフランチャイズのロイヤルティーが伸びたほか、鳥居薬品の連結子会社化、JT医薬事業とエダラボン事業の承継、ViiV社の持分法適用関連会社化が数字を大きく変えました。
つまり、既存製品の自然成長だけで63.7%増収になったわけではありません。買収後の統合、無形資産償却、投資回収を中長期で追う必要があります。通期予想は売上収益7,000億円、営業利益2,200億円で据え置きです。根拠は塩野義製薬の1Q決算短信です。
住友ファーマは増収でもコア営業減益
住友ファーマはオルゴビクスとジェムテサの伸長などで売上収益が19.9%増えました。親会社帰属利益は51.7%増ですが、コア営業利益は11.0%減、IFRS営業利益は10.8%減です。増収効果があっても、販売費や研究開発費などの増加で本業利益は減りました。
通期予想は売上収益5,400億円、営業利益900億円、親会社帰属利益770億円で変更ありません。今回追加されたのは第2四半期累計予想であり、通期上方修正ではありません。詳細は住友ファーマの1Q決算短信で確認できます。
主力製品と利益ドライバーを一枚で整理
| 会社 | 主なプラス要因 | 主なマイナスまたは注意要因 |
|---|---|---|
| 武田 | 成長製品、円安 | 恒常為替レートの売上は0.5%減、最終減益 |
| アステラス | 重点戦略製品、XTANDI、円安 | 研究開発費増、通期予想は据え置き |
| 第一三共 | エンハーツを中心とするADC | IFRS営業減益、最終減益、供給投資 |
| エーザイ | レケンビ、レンビマ、デエビゴ | 販促費と研究開発費が増加 |
| 小野 | 海外製品、ロイヤルティー | フォシーガ共同販売終了、オプジーボ競争 |
| 塩野義 | Fetroja、HIV関連、買収効果 | 買収後統合と会計処理の影響 |
| 住友 | オルゴビクス、ジェムテサ | コア営業減益、配当予想未定 |
今回の好決算は3タイプに分けて読む

増収増益という結果が同じでも、その質は企業ごとに違います。今回の7社は、製品成長型、外部要因・再編型、事業転換型の3つに分けると理解しやすくなります。これは会社の優劣を決める分類ではなく、次に確認すべきデータを明確にするための整理です。
| タイプ | 主な会社 | 今回の特徴 | 次の確認点 |
|---|---|---|---|
| 製品成長型 | アステラス、第一三共、エーザイ | 重点製品の販売拡大が増収を牽引 | 数量成長、適応拡大、利益率 |
| 外部要因・再編型 | 武田、塩野義 | 円安、買収、持分法利益の影響が大きい | 恒常為替、統合費用、反動 |
| 事業転換型 | 小野、住友 | 契約終了や製品構成変化の途中 | 新しい収益源が減少分を補えるか |
製品成長型は売上の質と利益への転換を見る
アステラス、第一三共、エーザイでは、主力薬の販売拡大が数字に表れています。ただし、発売直後や適応拡大期は販売促進費、臨床試験費、製造投資も増えます。第一三共が21.1%増収でもIFRS営業減益だったように、製品売上の伸びがそのまま会計利益へ届くとは限りません。製品別売上だけでなく、売上総利益率、研究開発費、販売管理費を合わせて見る必要があります。
外部要因・再編型は再現性を見る
武田の円換算増収や塩野義の買収効果は、当期の業績を実際に押し上げた重要な要因です。しかし、同じ割合で毎年続くとは限りません。為替が反転すれば円換算額は下がり、買収初年度の連結効果は翌年の比較では消えます。恒常為替レートの成長率、既存事業ベースの伸び、買収資産から生まれるキャッシュフローを追うことで再現性を確認できます。
事業転換型は増収と増益を別々に見る
小野はフォシーガ共同販売終了で減収でしたが増益し、住友は新製品の伸びで増収した一方、コア営業減益でした。基準年の契約収入や費用構造が変わる局面では、売上と利益が逆方向へ動きます。1四半期の増減率より、新たな主力品が旧製品や契約収入の穴を何年で埋めるかが重要です。
目的別にどの数字を優先するか

| 知りたいこと | 優先する指標 | 補助的に見る項目 |
|---|---|---|
| 事業規模が伸びたか | 売上収益と恒常為替成長率 | 製品別数量、地域別売上 |
| 本業の採算が改善したか | コア営業利益と利益率 | 販売管理費、研究開発費 |
| 会計上の成果を知りたい | IFRS営業利益と親会社帰属利益 | 減損、金融損益、税効果 |
| 将来成長を見たい | 通期予想と後期パイプライン | 承認時期、競合、供給能力 |
| 株主還元余力を見たい | 営業キャッシュフロー | 配当、自社株買い、有利子負債 |
初心者が最初に見るなら、売上収益、IFRS営業利益、親会社帰属利益の3つを同じ前年同期と比べ、その後にコア利益で一過性要因を確認する順番が分かりやすいです。コア利益だけでは実際に発生した減損や買収費用を見落とし、IFRS利益だけでは製品の基礎的な伸びを見誤る可能性があります。
通期上方修正はどこか
「複数社が上方修正」という印象も、項目別に確認する必要があります。主要7社で1Q時点に通期数値を実際に変更したのは第一三共です。アステラスは据え置き、住友ファーマは通期据え置きです。
| 会社 | 通期予想の扱い | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 武田 | 据え置き | 売上4兆6,400億円、営業利益4,200億円 |
| アステラス | 据え置き | 売上2兆2,200億円、営業利益3,950億円 |
| 第一三共 | 項目別に修正 | 売上と営業利益を上げ、親会社帰属利益を下げた |
| エーザイ | 据え置き | 売上8,835億円、営業利益700億円 |
| 小野 | 据え置き | 売上4,550億円、営業利益940億円 |
| 塩野義 | 据え置き | 売上7,000億円、営業利益2,200億円 |
| 住友 | 通期据え置き | 2Q累計予想を新規開示 |
第一三共の修正も、利益項目がすべて上がったわけではありません。決算ニュースの「上方修正」は、売上、営業利益、最終利益、配当のどれを指すのかを読むことが大切です。
好決算を支えた3つの共通要因
グローバル主力品が成長した
アステラスの重点戦略製品、第一三共のエンハーツ、エーザイのレケンビ、住友ファーマのオルゴビクスとジェムテサなど、海外で伸びる製品が増収の中心でした。国内薬価の引き下げを海外成長で補う構図が鮮明です。
円安が円換算の数字を押し上げた
海外売上比率が高い企業では、ドルやユーロ建て売上を円へ換算すると増収になります。ただし、海外費用も円換算で増えるため、売上への効果と利益への効果は一致しません。
| 会社 | 開示された為替影響 | 判断上の注意 |
|---|---|---|
| 武田 | 円安が円換算増収の主因 | 恒常為替レートでは売上0.5%減 |
| アステラス | 売上+約600億円、コア営業利益+約255億円 | 製品成長と為替を分けて評価 |
| エーザイ | 売上+189億円、営業利益+14億円 | 販売費や研究開発費も円安で増える |
| 大塚HD | 通期想定を1ドル150円から158円へ変更 | 上方修正には為替前提変更も含む |
一過性損益と企業再編が前年対比を動かした
減損損失の増減だけでなく、買収、事業承継、持分法利益、開発一時金などが利益を動かしました。塩野義の伸びには大型の事業取得が反映されています。逆に、第一三共はコア増益でもIFRS営業減益でした。前年同期比の大きさだけで、収益力が同じ割合で改善したとは判断できません。
前年度の好調は続いているのか
同じ主要7社の2025年度通期実績は、売上収益合計11兆621億円で5.4%増、営業利益合計1兆4,309億円で41.0%増でした。2026年度1Qは売上17.3%増、営業利益29.0%増です。増収率は加速し、営業利益も高い伸びを維持しました。
| 期間 | 売上収益合計 | 増収率 | 営業利益合計 | 増益率 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年度通期 | 11兆621億円 | +5.4% | 1兆4,309億円 | +41.0% |
| 2026年度1Q | 3兆788億円 | +17.3% | 6,115億円 | +29.0% |
ただし、年度と四半期を直接比べて勢いを断定することはできません。2025年度はアステラスの前年度減損の反動や住友ファーマの収益改善が増益率を押し上げました。2026年度1Qは円安、アステラスの製品成長、塩野義の買収効果が大きく、成長要因が入れ替わっています。前年通期の集計根拠はAnswersNewsの2026年3月期決算まとめでも確認できます。
成長分野はADCだけではない
今後の製薬会社を比較するときは、売上順位だけでなく、どの疾患領域と創薬技術に研究開発資金を振り向けているかを見る必要があります。今回の決算で成長が確認できた製品と、将来のパイプラインは同じではありません。すでに発売済みの製品が現在の利益を生み、臨床試験中の候補は将来の売上機会と失敗リスクを同時に持ちます。
| 成長領域 | 関連企業や製品例 | 投資家が確認したい点 |
|---|---|---|
| ADC | 第一三共のエンハーツなど | 対象がん種の拡大、競合、製造能力、安全性 |
| 認知症 | エーザイのレケンビ | 診断体制、投与施設、地域別普及、薬価 |
| 中枢神経 | 大塚HDのレキサルティ、アステラスのVEOZAH | 適応拡大、販促費、特許期間 |
| 感染症 | 塩野義のFetroja、HIV関連収益 | ロイヤルティー構造と新規需要 |
| 免疫と腎疾患 | 大塚HDのボイザクトなど | 新薬の立ち上がりと既存薬の特許切れ |
| 遺伝子治療など | 各社の臨床開発品 | 試験成功率、製造コスト、承認後の患者アクセス |
ADCは第一三共の成長を象徴しますが、7社全体を「ADC相場」と一括りにするのは適切ではありません。認知症、中枢神経、感染症、免疫など収益源は分散しています。パイプラインの記事を読むときは、前臨床、フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3、申請、承認のどの段階かを区別し、発売済み製品の売上と足し合わせないことが重要です。
大塚HDと中外製薬の最新上期決算

12月期企業の大塚HDと中外製薬も好調ですが、主要7社の1Qとは対象期間が異なります。2026年1月から6月までの上期として比較します。
| 会社 | 対象期間 | 売上系指標 | 利益指標 | 最新の通期予想 |
|---|---|---|---|---|
| 大塚HD | 2026年1月から6月 | 売上収益1兆3,324億円、+12.8% | 営業利益2,785億円、+15.0% | 売上2兆7,250億円へ上方修正 |
| 中外製薬 | 2026年1月から6月 | Core売上収益6,633億円、+14.7% | Core営業利益3,291億円、+21.0% | 会社計画との進捗を確認 |
大塚HDは上方修正と60円増配が事実
大塚HDの親会社帰属中間利益は2,156億円で24.3%増でした。レキサルティ、ロンサーフ、エビリファイの持続性注射剤、ボイザクトなどが寄与しました。通期売上収益は2兆5,200億円から2兆7,250億円へ、親会社帰属利益は2,650億円から3,550億円へ34.0%上方修正しています。年間配当予想も140円から200円へ60円増額しました。
ただし、「減損損失の縮小」が大塚HDの増益要因という説明は当上期には当てはまりません。減損損失は前年同期の5億円から41億円へ増えています。主因は売上総利益の増加と事業利益の伸びです。詳細は大塚HDの2026年12月期中間決算短信で確認できます。
中外製薬は上期でCore営業利益21.0%増
中外製薬の最新情報は4月発表の1Qではなく、7月24日発表の上期決算です。Core売上収益は6,633億円、Core営業利益は3,291億円、Core四半期利益は2,384億円でした。ロシュ向け輸出に加え、ヘムライブラやネムルビオのロイヤルティー、経口GLP-1製剤Foundayo関連のロイヤルティーが寄与しています。詳細は中外製薬の2026年上期決算リリースを参照してください。
海外比較ではイーライリリーがさらに上方修正
海外勢ではイーライリリーの成長が突出しています。2026年8月5日に発表した2Q売上高は230億ドルで48%増でした。マンジャロとゼップバウンドの販売数量が成長を牽引しています。
| 指標 | 2026年2Q | 前年同期比 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 229.7億ドル | +48% | 数量+60%、実現価格-13% |
| 営業利益 | 89.8億ドル | +31% | GAAPベース |
| 純利益 | 71.0億ドル | +25% | 買収関連研究開発費を含む |
| 通期売上予想 | 850億から870億ドル | 従来820億から850億ドル | 最新の上方修正 |
ご提示情報にあった820億から850億ドルは4月時点の見通しです。最新の2Q発表では850億から870億ドルへ引き上げられました。医薬品の数量成長が強い一方、マンジャロとゼップバウンドでは実現価格の低下も起きています。売上成長だけでなく価格圧力も同時に確認すべきです。一次資料はイーライリリーの2026年2Q決算リリースです。
製薬株を見るうえでの5つのリスク

製薬セクターは医療需要が景気変動を受けにくい一方、個別企業の利益は薬価、特許、臨床試験、規制当局の判断で大きく動きます。「好決算だから安全株」とは限りません。守りの投資先全般を比較したい方は、当サイトの暴落に強い銘柄の考え方も参考にしてください。
| リスク | 今回の具体例 | 次に確認する情報 |
|---|---|---|
| 為替反転 | 武田、アステラス、エーザイの円換算を押し上げ | 会社想定レートと恒常為替成長率 |
| 特許切れ | 大塚HDのジンアーク、小野のフォシーガ契約終了 | 後発品参入時期と代替製品 |
| 薬価政策 | 米国の価格引き下げ圧力、国内薬価改定 | 会社の感応度と対象製品 |
| 研究開発 | ADC、遺伝子治療、認知症薬への大型投資 | 主要試験の成否と承認時期 |
| 供給能力 | エンハーツや肥満症薬の需要拡大 | 設備投資、製造委託、供給計画 |
| 買収統合 | 塩野義の鳥居薬品やJT医薬事業 | のれん、無形資産償却、シナジー |
次の決算までに確認したいチェックリスト
| 確認項目 | 良い変化 | 警戒すべき変化 |
|---|---|---|
| 恒常為替成長率 | 円換算だけでなく数量も伸びる | 円安を除くと減収 |
| 主力薬の売上 | 処方数、地域、適応症が拡大 | 価格低下や競合で鈍化 |
| コア利益率 | 販促と研究開発を増やしても改善 | 売上増でも利益率が低下 |
| 通期予想 | 売上と利益が同時に上方修正 | 売上上方でも最終利益を下方修正 |
| 研究開発 | 後期試験や承認が予定通り進む | 中止、減損、安全性問題 |
| 株主還元 | 利益とキャッシュに裏付けられた増配 | 一時益頼み、配当予想未定 |
パイプラインの更新状況は、決算集計とは別テーマです。ご提示のAnswersNewsの記事は、16社の開発パイプラインを整理した資料であり、主要7社の業績集計ではありません。承認や開発中止を確認する補助資料として使うのが適切です。
よくある質問

2026年度1Qで主要7社中6社が増収増益という理解でよいですか
売上収益は6社が増収です。利益は指標によって異なり、IFRS営業利益と親会社帰属利益は5社が増益です。コア営業利益を開示する6社では5社が増益し、塩野義のIFRS営業増益を加えた会社別採用指標では6社が増益です。
主要7社にはどの会社が含まれますか
本記事では、武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共、エーザイ、小野薬品工業、塩野義製薬、住友ファーマを対象にしています。前年の業界集計と同じ顔ぶれです。
大塚HDと中外製薬を7社集計に入れないのはなぜですか
両社は12月期決算で、最新発表は2026年1月から6月までの上期です。3月期7社の4月から6月までと期間が異なるため、別枠にしています。
アステラス製薬は1Qで通期予想を上方修正しましたか
していません。2026年8月5日発表の1Qでは、売上収益2兆2,200億円、営業利益3,950億円、親会社帰属利益3,000億円の通期予想を据え置きました。
第一三共は2026年度に初めて売上2兆円を超えるのですか
いいえ。第一三共は2025年度に売上収益2兆1,230億円を計上済みです。2026年度の最新予想は2兆3,400億円です。
大塚HDの上方修正幅はどのくらいですか
通期売上収益は2兆5,200億円から2兆7,250億円へ8.1%、親会社帰属利益は2,650億円から3,550億円へ34.0%上方修正しました。
中外製薬の最新決算は1Qですか
2026年8月11日時点の最新は上期決算です。Core売上収益は6,633億円、Core営業利益は3,291億円でした。
円安なら製薬会社は必ず増益になりますか
必ずではありません。海外売上の円換算額は増えやすい一方、海外の研究開発費、販売費、製造費も円換算で増えます。製品構成やヘッジで利益への影響は変わります。
コア営業利益とIFRS営業利益はどちらを見るべきですか
両方を見るのが基本です。コア利益は本業の方向を把握しやすく、IFRS営業利益は減損や買収関連費用を含めた株主に帰属する実際の会計結果を確認できます。
好決算なら製薬株は買いですか
決算だけで一律に判断できません。株価には将来期待が織り込まれており、薬価、特許切れ、臨床試験、為替、バリュエーションを合わせて検討する必要があります。
次に最も注目すべき指標は何ですか
恒常為替レートでの売上成長、主力薬の処方数量、コア利益率、通期予想の変更、後期臨床試験の進捗を優先して確認すると、円安や一時益に左右されにくい実力を見極めやすくなります。
まとめ
2026年度1Qの国内製薬大手は、7社合計で売上収益17.3%増、IFRS営業利益29.0%増となり、好決算ラッシュとの評価は概ね妥当です。ただし、企業数では増収が6社、IFRS営業増益が5社、最終増益が5社でした。コア営業利益を開示する6社では5社が増益し、塩野義のIFRS営業増益を加えた会社別採用指標で6社増益となります。
アステラスの通期予想据え置き、第一三共の最終利益下方修正、小野の減収、住友のコア営業減益など、強い見出しだけでは見えない差もあります。大塚HDと中外製薬は好調ですが、12月期の上期実績として分けて読むのが正確です。次の決算では、円安を除いた成長と、主力製品が研究開発費や販促費を吸収して利益率を高められるかに注目しましょう。
決算発表後に株価が上がるかどうかは、実績の増減率だけでなく、市場予想との差、会社計画の修正、将来のガイダンスによって変わります。本記事の集計は業績の現在地を比較するためのもので、目標株価や短期の値動きを予測するものではありません。決算短信の訂正、追加の適時開示、説明会質疑が公表された場合は、必ず最新資料を優先してください。
本記事は2026年8月11日時点の公表資料に基づく情報提供を目的としたもので、特定の有価証券の購入や売却を推奨するものではありません。業績予想や開発計画は変更される可能性があります。投資判断は最新の適時開示とご自身の状況を確認したうえで行ってください。
