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アシックスは2026年9月9日、2,000万株、700億円をそれぞれ上限とする大規模な自社株買いを決議しました。取得期間は2026年9月10日から2027年3月31日までです。同時に、すでに保有している自己株式2,500万株を2026年9月30日に消却する予定も明らかにしました。
見出しの「最大700億円」はインパクトがありますが、投資家が確認すべきなのは金額だけではありません。株数上限と金額上限のどちらが先に到達するか、消却と買付けは何が違うか、1株利益はどの程度変わり得るか、強い業績が今後も続くかを分けて考える必要があります。
この記事では、アシックスの2026年9月9日発表、自己株式取得・消却の適時開示、説明会資料を中心に、2026年9月9日時点の事実を整理します。株価や指標は同日終値を使い、試算は会社公表値と区別して示します。
結論 アシックスの700億円自社株買いで押さえるべき5点
| 要点 | 事実 | 投資家が注意する点 |
|---|---|---|
| 取得枠 | 2,000万株、700億円がそれぞれ上限 | 2,000万株と700億円の両方を使い切る約束ではない |
| 取得期間 | 2026年9月10日から2027年3月31日 | 市場買付のため価格と取得ペースは変動する |
| 取得比率 | 自己株式を除く発行済株式総数の最大2.82% | 2.82%は2,000万株をすべて取得した場合 |
| 消却 | 既保有の自己株式2,500万株を9月30日に消却予定 | 買付予定の2,000万株を消却するという意味ではない |
| 株価 | 9月9日終値は4,100円、前日比51円高 | 自社株買いは株価上昇を保証しない |
今回の発表は株主還元と資本効率の改善に前向きな内容です。一方、9月9日終値4,100円が平均取得価格になると仮定すると、700億円で買えるのは約1,707万株です。株価が3,500円を上回る水準で推移すれば、金額上限が先に到達し、株数は2,000万株未満になる計算です。
もう一つの重要点は、2,500万株の消却と新しい自社株買いを同じ効果として扱わないことです。消却対象は6月末時点ですでに自己株式となっており、議決権や配当の対象外です。消却は将来の再交付による希薄化懸念を小さくしますが、消却した瞬間にEPSの分母が2,500万株減るわけではありません。EPSを押し上げ得るのは、主に市場から新たに取得して自己株式となる部分です。
アシックスが発表した自社株買いの正式な内容

アシックスは会社法第459条第1項第1号と定款第39条に基づいて自己株式取得を決議し、会社法第178条に基づいて自己株式の消却を決議しました。制度の条文はe-Gov法令検索の会社法でも確認できます。
| 項目 | 発表内容 |
|---|---|
| 決議日 | 2026年9月9日 |
| 対象 | アシックス普通株式 |
| 取得株数 | 2,000万株を上限 |
| 取得割合 | 自己株式を除く発行済株式総数の2.82%を上限 |
| 取得価額 | 700億円を上限 |
| 取得期間 | 2026年9月10日から2027年3月31日 |
| 取得方法 | 東京証券取引所における市場買付 |
| 消却株数 | 2,500万株 |
| 消却予定日 | 2026年9月30日 |
アシックスは実施理由について、2022年以降に過去最高業績を更新していること、2026年8月に通期業績予想を大幅に上方修正したこと、さらなる成長への自信、足元の株価水準を挙げました。そのうえで、株主還元の強化と資本効率の向上につながると説明しています。
資料は適時開示事項に関する説明会と適時開示資料一覧からもたどれます。上限は取締役会が認めた範囲であり、実際の取得株数と金額は今後の買付結果で確定します。
2,000万株と700億円は両方とも上限
自社株買いでは「株数」と「金額」の二つの上限が設定されています。実際に取得できる株数は、原則として株数上限と、金額上限を平均取得価格で割った株数の小さい方です。
| 仮定する平均取得価格 | 700億円で買える株数 | 実際に効く上限 | 6月末の対象株数に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 3,000円 | 約2,333万株 | 株数上限の2,000万株 | 2.82% |
| 3,500円 | 2,000万株 | 両上限が一致 | 2.82% |
| 4,100円 | 約1,707万株 | 金額上限の700億円 | 約2.41% |
| 4,500円 | 約1,556万株 | 金額上限の700億円 | 約2.19% |
| 5,000円 | 1,400万株 | 金額上限の700億円 | 約1.97% |
両上限がぴったり一致する価格は、700億円を2,000万株で割った3,500円です。平均取得価格が3,500円より高ければ、700億円を使い切る前提でも2,000万株には届きません。逆に3,500円より安ければ2,000万株に先に到達し、使う金額は700億円未満となります。
この表は手数料や日々の値動きを考慮しない単純試算です。会社は市場の状況などにより買付けを行わない日を設ける可能性もあり、上限まで取得する義務はありません。「700億円の買い需要が必ず発生する」「2.82%が必ず減る」と決めつけないことが大切です。
自社株買いと2,500万株消却の違い
| 比較項目 | 市場からの自社株買い | 保有自己株式の消却 |
|---|---|---|
| 今回の規模 | 最大2,000万株、最大700億円 | 2,500万株 |
| 株式の出どころ | 市場の株主から新たに取得 | 会社がすでに保有している自己株式 |
| 発行済株式総数 | 取得だけでは変わらない | 消却した株数だけ減る |
| 自己株式を除く株式数 | 取得した分だけ減る | 通常は消却だけでは変わらない |
| EPSへの機械的影響 | 利益が同じなら上昇要因 | すでに分母から除外済みなので直ちには変わらない |
| 主な意味 | 株主還元、資本効率向上、需給への影響 | 再交付余地をなくし潜在的な希薄化懸念を抑える |
自己株式には議決権がなく、会社自身への配当も行われません。市場買付けをすると、投資家が保有する株式数が減るため、利益が同じなら1株当たり利益は増えやすくなります。一方、会社がすでに保有している自己株式はEPS計算の株式数から除かれています。そのため、既存自己株式の消却だけを根拠に「EPSが2,500万株分上がる」と考えるのは誤りです。
消却は意味がないわけではありません。保有を続ければ、将来M&A、株式報酬、資金調達などで再び交付される可能性があります。消却すると株式そのものがなくなるため、会社が説明する通り、将来の潜在的な希薄化への懸念を和らげる効果があります。
消却と買付け後の株式数を整理
アシックスの株主構成と適時開示によると、2026年6月30日時点の発行済株式総数は7億3,448万2,236株、自己株式は2,557万1,333株、自己株式を除く株式数は7億891万903株です。
| 時点と仮定 | 発行済株式総数 | 自己株式 | 自己株式を除く株式数 |
|---|---|---|---|
| 2026年6月30日実績 | 734,482,236株 | 25,571,333株 | 708,910,903株 |
| 既存自己株式2,500万株を消却した直後 | 709,482,236株 | 571,333株 | 708,910,903株 |
| さらに2,000万株をすべて買い付けた場合 | 709,482,236株 | 20,571,333株 | 688,910,903株 |
下の2行は、6月末以降に今回の消却と買付け以外の株式変動がなく、取得株を追加消却しないと仮定した単純計算です。取得期間は消却予定日の前に始まるため、実務上の途中経過はこの順番通りとは限りません。しかし、最終的な違いを理解するには役立ちます。
消却後も「自己株式を除く株式数」が7億891万903株のままなのは、消す2,500万株がもともと自己株式だからです。その後、市場から新たに2,000万株を買い付けると、自己株式を除く株式数が6億8,891万903株へ減る計算です。
EPSは最大で約2.9%上がる計算だが実際は別
純利益が変わらず、期首から2,000万株がすべて自己株式だったと仮定すると、1株当たり利益の単純な押し上げ率は約2.90%です。計算は7億891万903株を6億8,891万903株で割り、1を引いて求めます。
| 取得シナリオ | 取得後の対象株数 | 純利益一定の場合の理論的なEPS押し上げ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 取得なし | 708,910,903株 | 0% | 比較の基準 |
| 平均4,100円で約1,707万株 | 約691,837,732株 | 約2.47% | 700億円全額使用を仮定 |
| 上限2,000万株 | 688,910,903株 | 約2.90% | 株数上限まで取得する仮定 |
実際のEPSは期中平均株式数で計算されます。取得開始は2026年9月10日で、終了期限は2027年3月31日です。2026年12月期は期末までの保有期間が短く、買付けも段階的に進むため、上の2.90%がそのまま2026年のEPSへ乗るわけではありません。純利益も将来変動します。
自社株買いの効果を学ぶ際は、当サイトの任天堂の株式売り出しと自社株買いを整理した記事も参考になります。株式売り出し、第三者割当、自己株買い、消却では、発行済株式総数と市場流通株式への影響が異なります。
9月9日の株価は発表後に上昇

アシックスの株価情報によると、2026年9月9日の東証終値は4,100円で、前日終値4,049円から51円、1.26%上昇しました。自社株買いは13時30分ごろに公表され、その後13時57分に日中高値4,187円を付けました。
| 9月9日の値動き | 株価 | 時刻または比較 |
|---|---|---|
| 前日終値 | 4,049円 | 9月8日 |
| 始値 | 3,979円 | 9時00分 |
| 安値 | 3,971円 | 9時00分 |
| 自社株買い公表 | 該当なし | 13時30分ごろ |
| 高値 | 4,187円 | 13時57分 |
| 終値 | 4,100円 | 15時30分、前日比1.26%高 |
| 出来高 | 12,253,100株 | 当日合計 |
発表直後の市場記事でも後場の上昇が伝えられています。公表後に株価が上がったため、発表が好感されたとみるのは自然です。ただし、1日の株価は市場全体、需給、為替、短期売買など複数の要因で動きます。51円の上昇分をすべて自社株買いの価値とみなすことはできません。
同日の年初来高値は8月17日の5,440円、年初来安値は1月30日の3,664円と表示されています。9月9日終値は年初来高値から約24.6%低い水準ですが、高値から下がったという事実だけで割安とは判断できません。業績予想、成長率、利益率、PER、競合との比較が必要です。株価急変時の考え方はOn Holdingの決算と株価下落を検証した記事でも詳しく解説しています。
700億円は時価総額の約2.3%
9月9日終値4,100円と発行済株式総数7億3,448万2,236株から計算した時価総額は約3兆113億円です。株価情報サイトの表示とも一致します。700億円の取得枠は、この時価総額の約2.32%に相当します。
| 指標 | 9月9日時点の値 | 読み方 |
|---|---|---|
| 終値 | 4,100円 | 当日の東証終値 |
| 時価総額 | 約3兆113億円 | 発行済株式総数ベース |
| 自社株買い金額上限 | 700億円 | 時価総額の約2.32% |
| 会社予想PER | 24.22倍 | 会社予想EPS169.30円を基礎とした表示 |
| 実績PBR | 8.10倍 | BPS505.92円を基礎とした表示 |
| 予想配当利回り | 1.07% | 年間配当予想44円を基礎とした表示 |
取得枠が時価総額の2.3%程度あることと、株価が必ず2.3%上がることは別です。市場は発表前から業績や還元期待を株価へ織り込み、実際の取得ペースも予測します。また、現金を使うと会社の資産も減るため、自社株買いを無条件の企業価値増加として扱うこともできません。
背景には過去最高の2026年上期業績
今回の判断を支えるのが好調な業績です。アシックスは2026年8月14日に2026年12月期第2四半期決算を発表しました。決算説明資料では、全カテゴリー、全地域で増収増益としています。
| 2026年1月から6月 | 2025年同期 | 2026年同期 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 4,027億円 | 5,344億円 | 32.7%増 |
| 売上総利益 | 2,284億円 | 3,062億円 | 34.1%増 |
| 営業利益 | 811億円 | 1,204億円 | 48.5%増 |
| 営業利益率 | 20.1% | 22.5% | 2.4ポイント上昇 |
| 経常利益 | 786億円 | 1,165億円 | 48.3%増 |
| 親会社株主に帰属する中間純利益 | 536億円 | 821億円 | 53.3%増 |
売上高の増加だけでなく、販売価格の適正化や販管費コントロールにより利益率も改善しました。特にスポーツスタイルは前年同期比83.0%増収、オニツカタイガーは35.9%増収です。海外売上高は4,388億円で、海外比率は82.1%でした。
成長の質を見るうえでは、為替の影響を除いた売上高も確認が必要です。連結売上高の為替影響除く伸び率は22.0%で、円換算効果だけでは説明できない増収でした。ただし、海外売上比率が高いため、今後も円高や円安は円換算業績と採算へ影響します。
通期予想は売上高1兆500億円へ上方修正
アシックスは上期実績と下期のスポーツスタイル、オニツカタイガーの好調見込みを踏まえ、2026年通期予想を引き上げました。正式な決算資料は決算短信一覧でも確認できます。
| 通期予想 | 2026年2月発表 | 2026年8月修正 | 修正率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 9,500億円 | 1兆500億円 | 10.5%増額 |
| 営業利益 | 1,710億円 | 1,950億円 | 14.0%増額 |
| 営業利益率 | 18.0% | 18.6% | 0.6ポイント上昇 |
| 当期純利益 | 1,100億円 | 1,200億円 | 9.1%増額 |
会社は為替影響を除いても売上高1兆円超、当期純利益は初の1,000億円超を見込むと説明しています。700億円の金額上限は、修正後の当期純利益予想1,200億円の約58.3%に当たる大きさです。ただし、取得期間は2027年3月までまたがるため、この割合を2026年単年の公式な総還元性向として扱うことはできません。
強い上方修正は自社株買いの裏付けになる一方、予想は確定した実績ではありません。スポーツスタイルの流行、地域別需要、為替、競争、原材料や物流費が変われば、実績は予想から上下します。中期経営計画2026の最終年度として、利益水準だけでなく次の成長投資も確認したいところです。
配当は年間44円予想へ増額
アシックスの株主還元方針では、中期経営計画2026の期間内で連結総還元性向50%を目指し、累進配当の継続を前提に利益配分を検討するとしています。総還元性向は配当だけでなく自社株買いも含む指標です。
| 年間配当 | 中間 | 期末 | 年間 |
|---|---|---|---|
| 2024年実績 | 10円 | 10円 | 20円 |
| 2025年実績 | 12円 | 16円 | 28円 |
| 2026年予想 | 20円 | 24円 | 44円 |
2026年は中間配当を従来予想18円から20円へ、期末予想を20円から24円へ引き上げ、年間では従来予想38円から44円へ増額しました。9月9日終値4,100円に対する単純な予想配当利回りは約1.07%です。
「配当性向」と「総還元性向」は同じではありません。配当性向は利益に対する配当の割合、総還元性向は配当と自社株買いの合計を利益と比べる考え方です。また、会社の50%目標は中期経営計画期間内の方針です。700億円を2026年純利益へそのまま足して、単年の公式比率を算出するのは避けるべきです。高配当を重視する人は月3万円の配当金に必要な資金を試算した記事もあわせて確認してください。
700億円を支えられる財務体力はあるか
2026年6月末の現預金残高は1,414億円で、2025年末から292億円増加しました。上期の営業キャッシュ・フローは588億円で、中間期として過去最高です。自己資本比率は2025年末の46.3%から52.8%へ上昇しました。
| 財務指標 | 2026年6月末または上期 | 比較 |
|---|---|---|
| 現預金残高 | 1,414億円 | 2025年末比292億円増 |
| 営業キャッシュ・フロー | 588億円 | 前年同期比124億円増 |
| 総資産 | 6,793億円 | 2025年末比928億円増 |
| 純資産 | 3,604億円 | 2025年末比870億円増 |
| 自己資本比率 | 52.8% | 2025年末比6.5ポイント上昇 |
| 自社株買い金額上限 | 700億円 | 6月末現預金の約49.5% |
現預金とキャッシュ創出力は自社株買いを実行する土台です。ただし、700億円は6月末現預金の約半分に相当します。現預金は仕入れ、人件費、税金、設備、研究開発、M&A、配当などにも使われます。6月末残高から単純に700億円を差し引いた金額が期末残高になるわけではありません。
投資家は還元額だけでなく、買付期間中の営業キャッシュ・フロー、運転資本、成長投資を併せて見る必要があります。アシックスはIR情報トップで経営計画や決算資料を公開しています。今後の決算では、還元を行いながら研究開発、デジタル、海外成長へ必要な投資を維持できているかが焦点です。
今回の自社株買いを前向きに評価できる材料

| 材料 | 評価できる理由 | 確認が必要な点 |
|---|---|---|
| 取得枠の大きさ | 最大700億円は時価総額の約2.3% | 実際の取得額と平均取得価格 |
| 業績の裏付け | 上期営業利益48.5%増、通期予想を上方修正 | 下期に予想通り伸びるか |
| キャッシュ創出 | 上期営業キャッシュ・フロー588億円 | 税金、運転資本、投資後の余力 |
| 消却 | 既存自己株2,500万株をなくす | 新規取得株の将来方針は別途確認 |
| 配当 | 年間44円予想へ増額 | 期末24円は予想であり確定前 |
| 経営陣の説明 | さらなる成長への自信と足元株価を明示 | 自信が実績につながるか |
自社株買いは、経営陣が現在の株価で自社株を取得することが資本配分として合理的だと判断したシグナルになり得ます。特に今回は、業績上方修正、増配、消却が同じ流れで示されました。
しかし、シグナルと結果は同じではありません。自社株買い後に業績が悪化すればEPSの改善効果は打ち消されます。高い価格で買い付ければ同じ700億円でも取得株数は少なくなります。還元と成長投資のどちらが長期的な1株価値を高めるかは、将来の投資収益率によって変わります。
自社株買いでも株価が下がる主なケース
| リスク | 株価への影響経路 | 見る数字 |
|---|---|---|
| 業績未達 | 利益減少が株数減少の効果を上回る | 売上高、営業利益、通期進捗 |
| 成長鈍化 | 高い成長期待が剥落し評価倍率が低下 | スポーツスタイルと地域別成長率 |
| 円高 | 海外売上の円換算額や採算に影響 | 為替前提、為替影響除く成長率 |
| 高値取得 | 700億円当たりの取得株数が少なくなる | 累計取得株数、累計金額、平均価格 |
| 取得未達 | 市場が期待した買い需要より小さくなる | 月次の取得状況 |
| 現金減少 | 投資余力や財務余力への懸念が強まる | 現預金、営業CF、投資CF |
| 市場全体の下落 | 個別材料より指数やリスク回避が優先 | TOPIX、同業他社、金利 |
9月9日時点の会社予想PERは24.22倍、PBRは8.10倍です。これらは株価と利益・純資産の関係を示す指標であり、単独で割安か割高かを断定できません。成長企業は将来利益への期待から倍率が高くなる一方、期待を下回ると株価調整が大きくなることがあります。
個別株の始め方や分散の考え方を確認したい場合は、投資初心者向けの始め方ガイドも参考になります。自社株買いの発表だけで一度に資金を入れず、家計の余裕資金、投資期間、許容できる下落幅を先に決めることが重要です。
EPSやROEの改善と企業価値の増加は同じではない
自社株買いで市場にある株式数が減ると、純利益が同じならEPSは上がります。自己資本も買付代金の支出などを通じて小さくなるため、純利益を自己資本で割るROEも上がりやすくなります。ただし、計算上の指標が改善しただけで事業が成長したとは限りません。
| 指標 | 自社株買いによる一般的な動き | 誤解しやすい点 |
|---|---|---|
| EPS | 分母の平均株式数が減れば上がりやすい | 純利益が減ればEPSも下がり得る |
| ROE | 自己資本が減れば上がりやすい | 本業の収益力向上だけを示すわけではない |
| BPS | 取得価格と1株純資産の関係などで変わる | 買付けなら必ず上がるとは限らない |
| PER | 株価一定でEPSが上がれば低下しやすい | 発表後に株価も動くため実際の倍率は変動する |
| 企業価値 | 余剰資本の適正化がプラスになる場合 | 成長投資を削れば将来価値を損なう場合もある |
判断の核心は、買付価格より高い価値を1株が持つと考えられるか、そして会社に残す現金を成長投資へ回した場合より自社株買いの方が株主にとって有利かです。買付価格が企業の本源的価値を大きく下回れば、残る株主の1株価値に有利に働きやすくなります。反対に割高な価格で大量取得すると、株数は減っても資本配分として効率的だったとは限りません。
アシックスの場合、上期の高い増収増益と営業キャッシュ・フローは肯定材料です。一方で、次期成長計画を控え、海外展開、研究開発、デジタル基盤、ブランド投資にも資金が必要です。今後は「何株買ったか」だけでなく、買付後も投資を続けながら利益成長を実現できるかを確認する必要があります。
今後確認したいスケジュールと数字
| 時期 | 予定または確認事項 | 注目点 |
|---|---|---|
| 2026年9月10日 | 取得期間の開始 | 開始日当日に必ず買うとは限らない |
| 2026年9月30日 | 自己株式2,500万株の消却予定日 | 発行済株式総数と残存自己株式 |
| 取得期間中 | 自己株式取得状況の公表 | 株数、金額、平均取得価格、進捗率 |
| 次回以降の決算 | 業績とキャッシュ・フロー | 上方修正後の通期予想に対する進捗 |
| 2026年11月 | 会社が説明した中計2029の発表 | 成長投資と株主還元の新しい方針 |
| 2027年3月31日 | 取得期間の終了期限 | 最終的な取得株数と取得総額 |
会社は説明資料で、中計2029の成長戦略を2026年11月に発表するとしています。大規模還元だけでなく、その後の売上成長、利益率、資本配分の目標が示されるかが重要です。IRの動向は公式サイトや個人投資家向けイベントで確認できます。
過去のアシックス自社株買いについては、当サイトのアシックスの過去の自社株買いを解説した記事にまとめています。今回の2,000万株、700億円枠は2026年9月9日に新たに決議された内容であり、過去の1,000万株、300億円枠とは別です。古い金額を現在の取得枠と取り違えないようにしてください。
アシックス株を判断するためのチェックリスト
| 確認順 | 質問 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 発表内容を正しく区別できているか | 買付け2,000万株上限と既存株消却2,500万株を分ける |
| 2 | 上限を実績と思っていないか | 月次取得状況が出るまで実績は確定しない |
| 3 | 業績の持続性を確認したか | 為替影響除く売上、利益率、カテゴリー別成長を見る |
| 4 | 株価に期待が織り込まれていないか | PER、PBR、過去推移、競合を比較する |
| 5 | 還元後の財務余力を見たか | 現預金、営業CF、成長投資を確認する |
| 6 | 投資資金に余裕があるか | 生活費と近い将来使う資金を除く |
| 7 | 複数シナリオを考えたか | 好調継続、成長鈍化、円高を想定する |
| 8 | 売却ルールを決めたか | 業績前提が崩れた場合の対応を事前に決める |
結論として、今回の自社株買いは規模、業績、キャッシュ創出、消却を組み合わせた積極的な株主還元です。ただし、株価の下値を保証する制度ではありません。投資判断では「最大700億円」という見出しだけでなく、実際の平均取得価格、取得株数、上方修正後の業績、次期中期計画を追う必要があります。
配当株との比較を広げたい人は、2026年9月権利の高配当株を比較した記事も参考にしてください。アシックスの予想配当利回りは9月9日終値ベースで1.07%であり、今回の投資材料は配当利回りだけでなく、成長と自社株買いを含む総合的な1株価値にあります。
よくある質問

アシックスの自社株買いはいくらですか
取得価額は700億円が上限です。実際に700億円を全額使うと決まったわけではなく、取得期間中の市場環境や買付結果によって実績は変わります。
何株を買う予定ですか
2,000万株が上限です。2026年6月末の自己株式を除く発行済株式総数に対して最大2.82%ですが、平均取得価格が3,500円を上回れば700億円の上限が先に効き、2,000万株未満になる計算です。
自社株買いの期間はいつからいつまでですか
2026年9月10日から2027年3月31日までです。期間中に毎日同額を買うとは限らず、具体的な取得は東京証券取引所での市場買付となります。
2,500万株の消却は新しく買う2,000万株ですか
適時開示の数値からみると、2,500万株は6月末時点で会社が保有していた自己株式2,557万1,333株の大部分です。新規取得枠の2,000万株とは別に理解する必要があります。
消却するとEPSは2,500万株分上がりますか
いいえ。既存の自己株式はすでにEPSの分母から除かれているため、消却だけで自己株式を除く株式数は通常変わりません。新たな市場買付けは分母を減らすため、利益一定ならEPSの押し上げ要因になります。
2,000万株をすべて取得するとEPSは何%上がりますか
純利益が同じで、全株が期首から自己株式だったとする単純計算では約2.90%です。実際は期中に段階取得し、利益も変動するため、2026年の実績値が同じ割合で上がるわけではありません。
700億円と2,000万株の両方に到達しますか
両方に同時到達する平均価格は3,500円です。平均価格がそれより高ければ金額上限、低ければ株数上限が先に到達します。そもそも会社には両上限まで取得する義務はありません。
9月9日の株価はいくらでしたか
東証終値は4,100円で、前日比51円、1.26%高でした。日中高値は4,187円、安値は3,971円です。株価情報は取得時刻や市場によって表示が変わるため、取引時に最新値を確認してください。
自社株買いで株価は必ず上がりますか
必ず上がるわけではありません。買い需要や1株指標の改善はプラス材料になり得ますが、業績、為替、市場全体、期待の織り込み、取得価格などによって株価は下がる場合もあります。
なぜアシックスは今、自社株買いをするのですか
会社は過去最高業績の更新、2026年通期予想の上方修正、さらなる成長への自信、足元の株価水準を理由に挙げています。目的は株主還元の強化と資本効率の向上です。
2,500万株を消却する目的は何ですか
会社は将来の潜在的な株式希薄化懸念を払拭するためと説明しています。消却した株式は将来の交付に使えなくなるため、既存株主にとって再交付リスクが小さくなります。
2026年の業績予想はいくらですか
2026年8月時点の会社予想は、売上高1兆500億円、営業利益1,950億円、当期純利益1,200億円です。いずれも予想であり、将来の実績を保証する数値ではありません。
2026年の年間配当はいくらですか
中間20円、期末24円、年間44円の予定です。中間は決定済み、期末24円は予想です。9月9日終値4,100円に対する予想配当利回りは約1.07%です。
アシックスに700億円を使う余力はありますか
6月末の現預金は1,414億円、上期営業キャッシュ・フローは588億円でした。一定の財務基盤は確認できますが、700億円は現預金の約半分に相当し、成長投資や運転資金とのバランスを継続して見る必要があります。
今からアシックス株を買えばよいですか
自社株買いだけで判断はできません。現在の株価に成長期待がどこまで織り込まれているか、業績が持続するか、為替や競争のリスクを許容できるかを確認し、余裕資金と分散を前提に判断してください。
今後どの数字を確認すればよいですか
月次の取得株数、取得金額、平均取得価格、上方修正後の業績進捗、営業キャッシュ・フロー、現預金、2026年11月に示される予定の中計2029が重要です。取得実績はアシックスの公式IRで追えます。
過去の300億円の自社株買いと同じですか
別の決議です。今回扱うのは2026年9月9日に発表された最大2,000万株、最大700億円の取得枠です。過去記事や検索結果に表示される1,000万株、300億円という数値と混同しないでください。
まとめ

アシックスが2026年9月9日に決議した自社株買いは、2,000万株と700億円をそれぞれ上限とし、2027年3月31日まで市場で実施されます。既存自己株式2,500万株の消却も9月30日に予定されています。
評価の中心は、好調な業績とキャッシュ創出を背景に、増配、自社株買い、消却を同時に進める点です。ただし、2,000万株と700億円は上限であり、実績ではありません。消却対象はすでにEPSの分母から除かれた自己株式なので、消却だけのEPS効果を過大評価しないことも重要です。
9月9日の株価は発表後に上昇しましたが、将来の値上がりが保証されたわけではありません。月次の取得実績、平均価格、通期業績、中計2029を順番に確認し、発表の大きさではなく1株当たり価値が継続的に高まるかで判断しましょう。
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本記事は2026年9月9日時点の公表資料に基づく情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。株価、業績予想、配当予想、取得状況は変わる可能性があります。



