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「エンジェル税制を使えば、未上場株への投資で税金を減らせる」「株式譲渡益が20億円まで非課税になる」。こうした説明を見ると、資産形成の有力な選択肢に感じるかもしれません。
ただし、税制上の優遇と、投資先が成長して資金を回収できるかは別の問題です。控除した金額が将来の売却時の取得価額から差し引かれる仕組みや、2026年から適用される保有期間の条件も理解しておく必要があります。
この記事では、エンジェル税制の優遇措置A・B・プレシード・シード特例の違い、2026年の変更点、未上場株をポートフォリオに組み入れる際の確認事項を整理します。
エンジェル税制とは?対象企業に投資する個人向けの制度

エンジェル税制は、スタートアップへの投資を促すため、一定の企業に出資した個人投資家に税制上の優遇を設ける制度です。投資時の控除に加え、対象株式の売却などで損失が生じた場合の特例もあります。出典・国税庁「エンジェル税制の概要等」
未上場企業ならどこでも使えるわけではありません。企業側と個人投資家側の要件を満たし、対象になる方法で株式を取得する必要があります。「設立5年未満」といった年数だけで適用が確定するものでもありません。
確認する順番は、①対象企業・対象取引か、②自分が使える措置は何か、③控除を反映できる所得があるか、④必要な申告を行えるか、です。経済産業省は、投資方法により確認申請の流れが異なることも案内しています。出典・経済産業省「エンジェル投資に対する措置」
優遇措置A・B・プレシード・シード特例の違い
個人によるスタートアップ投資では、主に次の3つを比較します。自ら会社を設立する場合の「起業特例」もありますが、この記事では他社への投資を中心に扱います。
| 措置 | 投資時の基本的な仕組み | 注意点 |
|---|---|---|
| 優遇措置A | 一定の投資額を寄附金控除の対象にする | 800万円の上限や総所得金額等の40%の制限、2,000円の差引きがある |
| 優遇措置B | 対象となる投資額を株式等の譲渡所得等から控除する | 控除を反映できる譲渡所得等の範囲内。原則として課税繰延べ |
| プレシード・シード特例 | 追加要件を満たす企業への投資額を株式等の譲渡所得等から控除する | 一定の適用額20億円まで、通常の取得価額の減額調整が不要。保有期間にも条件がある |
概要の出典・経済産業省「エンジェル税制」。表は主要な違いを整理したもので、要件のすべてを示すものではありません。
優遇措置Aは、投資額がそのまま税金から引かれるわけではない
Aは所得控除です。100万円投資したから100万円の税金が戻るという意味ではありません。ほかの寄附金控除の対象支出がなく、投資額と所得の上限に十分な余裕がある単純な例では、100万円−2,000円=99万8,000円が所得控除額になります。
仮に、この控除額全体に対応する所得税率が20%で変わらないとすると、所得税本税の減少額は19万9,600円です。復興特別所得税、他の控除、端数処理などは省いた説明用の計算で、実際の還付額ではありません。
年収と総所得金額等も同じではありません。給与収入の金額をそのまま40%の計算に使わず、寄附金控除の上限とほかの寄附金との関係を確認してください。出典・国税庁の寄附金控除・取得価額調整の説明
優遇措置Bは、給与の税金を直接減らす制度ではない
Bで控除する先は株式等の譲渡所得等です。給与が高いことだけで効果が生じるわけではありません。また、含み益と売却して確定した利益を区別する必要があります。
税制上の「上限なし」も、投資額が無条件に全額還付されるという意味ではありません。控除先となる譲渡所得等や、後述する前年分への還付の要件によって、利用できる範囲が決まります。
「20億円まで非課税」は、投資先の将来の利益が全部非課税という意味ではない
プレシード・シード特例を理解する鍵は、投資時に控除した金額を、後で取得価額から減らすかどうかです。
通常の優遇措置Bでは、控除した額に応じて株式の取得価額を減額するため、将来の売却時に計算される利益が大きくなります。一方、プレシード・シード特例では、要件を満たす一定の適用額が20億円以下なら、この減額調整が不要です。出典・国税庁「特定投資株式の取得に要した金額の控除等の特例」
次は違いを示す架空の例です。対象株式へ100万円を投資し、100万円全額について譲渡益控除を受け、必要な保有期間を経て160万円で売却したとします。同一銘柄の別の保有株、手数料、追加投資などはないものとします。
| 比較項目 | 通常の優遇措置B | プレシード・シード特例 |
|---|---|---|
| 投資時に控除した額 | 100万円 | 100万円 |
| 売却時の取得価額 | 0円に調整 | 100万円を維持 |
| 160万円で売却した際の利益 | 160万円 | 60万円 |
特例を使っても、投資後に増えた60万円まで自動的に非課税になるわけではありません。「20億円」という数字は、どの利益・どの適用額についての説明なのかを確認することが大切です。
優遇措置Aにも取得価額の調整があります。投資時の税額だけを比べず、売却時まで含めて検討しましょう。
2026年からの変更点は再投資期間と保有期間

再投資は翌年末までに延長。ただし先に申告手続きが必要
2026年1月1日以後に取得する対象株式では、所定の手続きを前提に、株式譲渡益が生じた翌年末までの再投資を対象とする仕組みが導入されています。
たとえば2025年分の譲渡益を基に2026年に再投資する場合、2025年分の期限内確定申告で、再投資の見込みなどを記した書類を添付しておくことが条件になります。さらに2026年分も期限内に申告し、必要な還付請求を行います。
2026年に投資すれば、前年の利益に対して後から自由に適用できるわけではありません。所得税では、投資年に控除しきれない一定額について前年分の還付を請求する形です。出典・国税庁「繰戻し還付請求」の条件と手続き
非課税措置には翌年末までの保有期間が設定された
プレシード・シード特例の非課税措置では、2026年1月1日以後の取得株式について、取得した年の翌年末までの保有期間が設けられました。期間内に一定の譲渡をした場合は、非課税措置から課税繰延べへ扱いが変わります。
2026年取得なら、原則として2027年末までの保有を考える必要があります。ただし、IPOやM&A等に伴う一定の譲渡は例外とされており、売却理由と契約内容を個別に確認します。出典・経済産業省「エンジェル税制申請ガイドライン」令和7年度改正事項
この期間は、過ぎれば必ず売れる期限でもありません。税制上の保有条件と、実際に買い手が見つかるかは別です。
未上場株のリスクは、値下がりだけではない
未上場株への投資では、事業が成長したときの利益を期待できる一方、資金を失う可能性や、長期間換金できない可能性があります。契約締結前の説明を読み、個別企業ごとの条件を確認することが基本です。参考・日本証券業協会「株式投資型クラウドファンディングの特徴・リスク」
| 確認したいリスク | 投資前に読む情報 |
|---|---|
| 事業の失敗・資金不足 | 手元資金、毎月の支出、次の資金調達までの計画 |
| 換金しにくさ | 譲渡制限、売却できる仕組み、買い手がいない場合 |
| 情報の不足 | 決算資料、開示頻度、事業計画の進捗報告 |
| 追加増資による持分の希薄化 | 発行済株式数、新株予約権、追加調達の予定 |
| 株式の権利の違い | 普通株・種類株の別、優先分配、株主間契約 |
株価が毎日表示されないことは、価値が安定している証拠ではない
上場株のような日々の市場価格がなくても、顧客の減少、資金調達環境の悪化、競争激化で企業価値は変わります。帳簿上の評価額が動かないことだけを理由に、値動きの小さい資産と同じ扱いにするのは適切ではありません。
上場株と異なる成長段階の企業を持つことで投資先を広げられても、同じ業種や景気要因に依存していれば、リスクが重なる可能性があります。「未上場だから分散できた」と決めず、何に影響を受ける事業なのかを見ます。
IPOやM&Aは予定どおりに実現するとは限らない
回収方法としてIPOやM&Aが想定されていても、実施時期、価格、投資家への分配は確約されません。売買の場がある場合も、希望価格で売れるかは別です。資金を使う予定日が決まっている人ほど、この点を重く考える必要があります。
ポートフォリオは「売れる資産」と「売りにくい資産」を分けて考える
税優遇のある商品を探す前に、家計全体の資産配分を点検しましょう。生活に使う資金と、長期運用する資金を分けたうえで、株式、債券、現金などの比率を確認します。
GPIFも、基本となる資産構成割合を定めて長期運用する考え方を示しています。ただし、公的年金の目的や運用期間は個人と異なるため、その比率をそのまま自分の正解にする必要はありません。参考・GPIF「基本ポートフォリオの考え方」
リバランスは、値上がり予想ではなく配分のずれから考える
たとえば、投資資金1,000万円を株式600万円、その他400万円で保有し、株式だけが900万円に増えたとします。株式比率は60%から約69.2%になります。元の60%へ戻すなら、全体1,300万円の60%である780万円が目安です。
この単純例では120万円分をほかの資産へ移す計算ですが、実際には税金や売買コストがかかる場合があります。新たな積立資金を不足している資産に振り向ける方法もあります。これは計算例であり、株式60%を推奨するものではありません。
リバランスの目的は、想定するリスクに配分を近づけることです。相場が一方向に上がり続ければ、売らずに持ち続けたほうが好成績になることもあり、必ず利益を増やせる方法ではありません。
未上場株は途中で減らせない前提で上限を考える
上場株なら配分調整のために売却を検討できますが、未上場株では同じように動けるとは限りません。購入時の上限と、追加出資に使う上限を先に決めることが重要です。
「投資額が全額失われた場合」と「想定より何年も資金を回収できない場合」の両方を家計に当てはめて考えてください。耐えられる金額は、所得の高さだけでなく、住宅・教育・退職後の支出予定によっても変わります。
損失の税制優遇は、投資元本を返してくれる制度ではない
対象株式の譲渡損失は、要件を満たせば他の株式等の譲渡所得等と通算でき、控除しきれない分を翌年以後3年間繰り越せます。給与所得と自由に相殺できる制度ではありません。出典・国税庁「譲渡損失の損益の計算の特例」、「譲渡損失の繰越控除の特例」
繰越控除には、損失が生じた年から必要書類を添付して連続して申告することが求められます。株式を売却していない年も、翌年へ繰り越すための申告が必要です。
また、業績が悪くなったというだけで、すぐに税務上の損失を確定できるわけではありません。価値を失った場合の特例には、破産手続開始など一定の事実が必要です。出典・国税庁「特定投資株式が株式としての価値を失った場合の特例」
投資時に控除を受けた株式は、取得価額の調整も損失額に影響します。「購入額全額の所得控除を受け、失敗時には同額の損失をもう一度控除できる」と単純には考えられません。
投資から確定申告までに確認すること
- 募集資料で適用候補を確認する。企業の設立年数だけでなく、A・B・プレシード・シード特例のどれが対象かを調べます。
- 自身の所得と取引を整理する。総所得金額等、株式の確定利益、過去の損失、ほかの寄附金控除を確認します。
- 取得方法を確認する。新株への払込みと既存株主からの購入では扱いが異なります。新株予約権も、購入した年に自動的に控除できるとは限りません。
- 必要書類と申告年を確認する。企業側の確認手続き、確認書等の発行予定、前年分への還付を使う場合の事前手続きを確認します。
- 保有中と売却後の記録を残す。投資額、適用した控除、調整後の取得価額、譲渡日などを保存します。
事前確認は制度対象かどうかを確認するためのもので、投資成績の保証ではありません。申請や書類は出資時期・取得方法に対応するものを使い、最新の案内に沿って進めます。出典・経済産業省「事前確認制度・確定申告までの流れ」
エンジェル税制と未上場株投資のよくある質問

Q. 未上場株を買えば誰でもエンジェル税制を使えますか?
使えません。企業・個人投資家・取得方法の要件と必要な申告を満たす必要があります。
Q. 所得控除と税額控除は同じですか?
異なります。優遇措置Aは所得控除で、控除額そのものが税金から差し引かれるわけではありません。
Q. AとBを同じ株式に重ねて使えますか?
同じ年の同一銘柄について重複適用はできません。使える制度と所得の状況を踏まえて選択します。
Q. プレシード・シード特例なら将来の売却益も非課税ですか?
一律に非課税ではありません。一定額まで取得価額を減額しなくてよい仕組みで、投資後の値上がり益まで丸ごと非課税になるものではありません。
Q. 2026年に投資すれば2025年の税金が必ず戻りますか?
必ずではありません。前年の期限内申告での書類添付や、投資年の期限内申告・還付請求などの条件があります。
Q. 株価が毎日動かない未上場株は安全ですか?
価格の表示頻度とリスクの大きさは別です。企業価値の低下に加え、売りたいときに売れないリスクがあります。
Q. 税優遇があるなら資産の多くを投じてもよいですか?
税優遇だけでは判断できません。全額損失と長期の換金不能を想定し、生活に必要な資金を分けて考えます。
税優遇を確認したうえで、事業と資産配分から判断する

エンジェル税制は、条件に合う投資家にとって税負担を考える有用な制度です。ただし、控除と非課税の違い、将来の取得価額調整、2026年からの再投資・保有期間の条件を理解する必要があります。
まず家計の資金計画と現在の資産配分を確認し、その後で投資先の事業、価格、情報開示、回収方法を検討しましょう。税制を使わなくても保有したいと思える事業か、長く売れなくても困らない金額かを考えることが、判断の土台になります。
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